デルフォイで神託を受ける
神託を受けたい
人生、アドバイスを貰いたい時が多い。先生や友人に貰うアドバイスも貴重だが、初詣で引いたおみくじに書いてあるアドバイスは特に重要な気がしないだろうか?
昔の偉い人もアドバイスを貰いたい時が沢山あった。例えば戦をする時、攻めて良いのか不安だったりする。そういう時に神のお告げを受けることで、安心して戦に臨めるというわけだ。神からのお告げを神託といい、国レベルの大切な決断から個人的な引っ越しの相談まで幅広く対応する神託界の大御所が、ギリシャにあるデルフォイだ。
私も、デルフォイで神託を受けたい!
今回の記事では、私が神託を受ける過程と、美しいギリシア世界をご紹介しようと思う。
アテネで大興奮
デルフォイに行く前に、まずはアテネを観光することにした。他の神殿で肩慣らしをしようという魂胆である。
これは、ギリシャで一番有名だと思うパルテノン神殿だ。アクロポリスの丘という小高い場所にあり、街を一望できる。
高校の時世界史で習ったのだが、古代ギリシアの都市には「アゴラ」と呼ばれる広場が存在し、人々の交流の場となっていた。当時このアゴラという言葉が妙に頭に残り、私の頭の容量が圧迫され、センター試験で大変苦しい思いをした。そんなアゴラであるが、一体全体どれほどの広さなのか検討も付かず、積年の疑問であった。今回の旅行では、そんな生アゴラに足を運ぶ事ができ、感慨無量である。
これがアゴラだ。思ったより広い。建物は殆ど原型をとどめていないが、当時は賑わっていたのだろうと想いを馳せて散歩した。
アゴラ内の博物館では、面白い展示を閲覧できた。
これはオストラコン。追放したい人の名前を刻んで投票するのに使われた。自分の名前が書かれている陶片が何世紀も展示されると思うと可哀想である。
この謎マシンが一番ワクワクした。異様な風貌をしたこのマシンは、古代の抽選機だ。身分証を横長の穴に挿しておき、左の丸い部分から玉を順に出していく。各行ごとに玉を出し、当たりが出た行の人物が陪審員に指定されるという仕組みだ。抽選する人も、ビンゴ大会気分でウキウキだっただろう。
こんな昔から数十連ガチャが存在していることに感銘を受け、また同時に「こんな大層な物を作らなくても、紙のクジを引けば良いのでは?」と思った。
ちなみに、アクロポリスのアゴラ周辺は店が立ち並び、非常に賑やかである。現代のアゴラもしっかりと経済の中心になっている。
さて、私がアゴラに来たら絶対にやろうと思っていたことを披露する時間がきたようだ。それではご覧いただこう。
アゴラで、アグラ
突然の寒いダジャレにショックを受けた読者の為に、秘蔵の猫コレクションを用意したので落ち着いて欲しい。
いざ神託を受ける
いよいよ本題の神託を受ける時が来た。私の調査によると、次の手順で神託を受けることが出来る。今後神託を受ける人は参考にして欲しい。
- 生贄を捧げる
- 巫女が地割れから吹き出すガスを浴びる
- トランス状態の巫女から言葉を受け取る
なんということだ。全ての手順があまりにも難しすぎる。生贄も巫女もガスも用意することができない。このままでは神託を受けることができないではないか!私は憤怒した。
ホテルで慎重な検討を重ねた結果、下記の代替案で神託を受けることにした。
- 生贄を捧げると警備員に怒られる可能性が高いので、入場料を収める
- 巫女の代わりにガイドのおばさんを雇う
- 神殿で祈り、その晩に見た夢を神託とする
夢は古来より重要な意味を持つと考えられているため、我ながら妥当な手段だと思う。
デルフォイはアテネから車で数時間の場所にあり、パルナッソス山に囲まれている。いざ到着すると、あまりの神々しさに言葉を失った。
雲の間から光が差し、後ろには雄大な山が広がっている。こんな場所ならオリンポスの神々も快適に暮らせる。
神託を受けるにあたり、何を質問するか非常に悩ましかった。ギリシャの神々に質問するに足るような質問にするべきだ。散々悩んだ挙げ句、「私はどう生きればいいか」と聞くことにした。
そしてアポロン神殿に祈りを捧げた。生贄も巫女も用意出来なかったことを詫び、夢でアドバイスを頂けるよう切実にお願いした。
夢
デルポイからホテルに帰った私は、緊張の面持ちでベッドに転がった。静かに目を閉じ、今日の出来事をぼんやりと回想しながら眠りについた。
その晩、4つの奇妙な夢を見た。朝に書いた手記を使って私の夢を順番に紹介し、アポロン神からのメッセージを読み解こうと思う。
高校で受験後に社会を受けたが、難しすぎてやめたくなった。しかし、それでも続けてみたらいいかも(原文ママ)
本記事の最初の方でも書いたように、私は世界史があまり得意ではなく、受験においては劣等感を覚えていた。無意識に抑圧されていた気持ちが、この旅行をきっかけに呼び起こされ、当時の苦い思い出が夢に出たのだろう。しかし、後半では「それでも続けてみたらいい」と前向きな気持ちを示している。正直受験勉強を続けたいと思ったことは無く、そのような夢を見ることは意外であった。きっとこの部分が教訓であり、「困難に立ち向かうことが大切である」と説いているのだろう。
ツイッターが凍結された
朝起きた時はあまりのしょうもなさに愕然としたが、冷静に読み解いてゆきたい。私がツイッターを使う時、自分を披露したい自己顕示欲と、他のユーザーからの「いいね」を欲する承認欲求に支配されている。フロイトによると全ての夢は願望充実のために見るとされており、この場合も私の欲が現れたのだろう。そんなツイッターのアカウントが凍結された夢を観た時、破滅に近い感情を味わった。すなわち、「強欲は破滅へ繋がる」と説いているのだろう。
入社式に遅れた
これから社会人になるという時期にこんな夢を見て、その不吉さに戦慄した。そのまま受け取ると「遅刻に注意せよ」であるが、自分にとって入社式とはモラトリアム終了の象徴であり、大きな不安を抱いている。そのようなストレスに対処し、遅くてもいいので社会に出ろ、つまり「気持ちの切り替えを焦るな」というメッセージかもしれない。
言うことを聞かない蛇に激怒し、口論した。その蛇は干上がった。
これが一番意味深長で、一見すると意味不明であるが、後味の悪い夢であった。夢に登場する蛇は、古来より神の使いや縁起の良いもの、権力の象徴、卑猥なものの象徴など様々な解釈がなされている。蛇との戦いといえば、ギリシャ神話でヘラクレスが蛇の怪物ヒュドラ(Hydra)と対決した話が有名である。ヒュドラは沢山の頭を持つ蛇で、頭を切っても再生してしまう。そのためヘラクレスは断面を焼くなどして倒した。私は、夢に出てきた蛇はこのヒュドラではないかと考える。上で猫の写真を載せたが、その写真を撮った場所はイドラ(Hydra)島であった。よく見ると後ろの垂れ幕にもHydraと書いてある。
更に、蛇が干上がるという内容も蛇がヒュドラであることの妥当性を示している。「乾燥」を表す英語は "dehydrate"であり、"hydra"を含んでいる。このような連想が夢にヒュドラを生み出したのだろう。
さて、ヘラクレスの戦いと私の夢で異なる点は、倒し方である。私は一切物理的な攻撃を加えず、言葉のみで戦った。今までの数年間を振り返ると、言葉によって大きく傷つき、また人を傷つけてしまったことが想起される。ヒュドラには言葉という武器で勝利したが、なんとも後味の悪い気持ちになった。したがって、私がこの夢から得た教訓は「言葉の重みを知れ」である。
総括
Q. 「私はどう生きればいいか?」
A.
- 困難に立ち向かうことが大切である
- 強欲は破滅へ繋がる
- 気持ちの切り替えを焦るな
- 言葉の重みを知れ
これが本当に神託なのかは神のみぞ知る事であるが、ミステリアスな旅を楽しむことができた。みなさんも、重要な決断をするときにはデルフォイに赴くことを検討して頂ければ幸いである。
ギリシャ料理「ムサカ」はジャンキーで美味しかったが、量が多すぎた。