つなブログ

日々の記録です

チュートリアルおじさんと私

私は確信した。この世界には初心者用チュートリアルを担当するおじさんが居ると。

チュートリアルおじさんは、ただ親切なおじさんではない。妙に説明的で、何の脈絡もなく初歩的なアドバイスを提供してくれるおじさんだ。

あれはポーランドバーガーキングでレジに並んでいた時のことであった。背の高いおじさんが突然振り返り、スマホを見せながら私に囁いた。

「知ってるか?バーガーキングのアプリを使えば安くなるんだ」

唐突にアドバイスされた私は、困惑のあまりアプリをインストールする暇もなく会計を済ませてしまった。おじさんは、そんな私を気にかける様子もなく、ただ静かにバーガーを持って去った。一体何故このタイミングで割引の事を教えてくれたのか?安くないバーガーを齧りながら、私はおじさんの背中を思い描いた。

同国の市バスに乗った時、年配のおじさんと目があった。

「今日は特別な日だからバスの券は要らないんだ」

そのころ別行動していた友人がバスに乗った時、おじさんに話しかけられたという。

「今日は特別な日だからバスは無料なんだ」

何という事だ。このメッセージを告げるおじさんが意図的に配置されていたとしか考えられない。

また友人によると、博物館で展示を見ている時いきなり「歴史を学びたいなら本を読んだ方がいいぞ」と伝えるおじさんに遭遇したそうだ。この辺りから、街でおじさんを見るたびにチュートリアルが飛び出すのでは?という気持ちが膨らんできた。

しかし、チュートリアルおじさんは初心者の前にだけ現れる。街に慣れてきた私の前に、彼らの姿が現れる事はなかった。

チュートリアルおじさんは、初めての街に出没する。初めてギリシャの地下鉄に乗った時、路線図を見ながら何気なく目的の駅を口走ると、若いおじさんが嬉々として私に話しかけてきた。

「その駅は2つ目の駅でレッドラインに乗り換えるんだ。電車を降りたら右だぞ」

また初心者に戻れた。初めて見るおじさんなのに、どこか懐かしかった。

オーストラリアに行った時は、チュートリアルお姉さんに遭遇した。

バスの中、現地のSIMカードスマホに挿していると、居合わせたお姉さんがドコモショップ並みの丁寧さでセットアップ方法を指南し、にこやかに去って行った。

彼らは一体何者なのか。本当に存在したのだろうか。今となっては知る由も無いが、今日も世界のどこかでおじさん達はチュートリアルを繰り広げている。